こどもの頃、学校や塾など家族以外の身近な大人として、お世話になった“先生”。
実際に先生として働いたことはなくても、生徒としてその仕事を近くで見てきた人がほとんどではないでしょうか? 保護者以外の身近な大人として、憧れを抱いた人もいると思います。
そこで特別企画として、あらゆるポジションで活躍されている「先生」シリーズをご用意しました。
イキイキと働く先生の姿にも、「はたらくを楽しく」たくさんのヒントがつまっています。
今回は、「将来の自分を考えることから、少し距離を置きたくなる」インタビューをお届けします。
人生100年時代。
長く生きられるようになったのはいいけれど、その分将来について不安を感じることもしばしば…。
しかし「将来のための何かを身に付けさせる」ことを目的としない「いもいも教室」の主宰・井本陽久(いもと はるひさ)先生の話を伺った今、「人生、流れに身を任せてみてもいいかも」と思えているのです。
<語り手>井本 陽久(いもと はるひさ)先生
プロフィール
いもいも教室 主宰、栄光学園中学高等学校非常勤講師。
神奈川県鎌倉市にある私立の中高一貫校「栄光学園」にて数学教師として27年間勤めたのち、2019年度より非常勤講師となり花まる学習会主催「いもいも教室」を運営している。
<ライター>クリス
●もくじ
1.持ち前のサービス精神が導いた、先生への道
2.いもいも教室誕生のきっかけは、流れに身を任せたから!?
3.ありのままの“ぷるっ”とを大切にすることで生まれるもの
持ち前のサービス精神が
導いた、先生への道
――――井本先生のこれまでのインタビューを拝見して、教育、先生という仕事をとても楽しまれている教育者だなと感じています。昔からこの仕事をしたいという気持ちが強かったのでしょうか?
井本先生:
特に「先生になりたい」という目標を抱いたことはないんですよ。でも、中学2年生の頃から「自分は先生になる」と知っている、という感じでした。
僕は「ダメ」と言われたことほど好奇心が抑えられなくてやってしまういわゆる問題児で、先生からたくさん怒られるような子どもだったのですが、先生のことは好きだったんです。とにかく周りを笑わせたい、びっくりさせたいという思いだけでした。
子どもっていい悪いにかかわらずとんでもないことをしたら、わーっと盛り上がるじゃないですか。僕の悪さは、そうやって萎縮している子の心を解放したい、という、いわばサービス精神から来るものだったと思っていて。
この精神が土台にあったから、先生という仕事が自然と頭に浮かんだんだと思います。
そこからずっと、とにかく目の前の子どもたちに“ぷるっとさせる”一心でこの仕事に没頭してきました。僕が今主宰を務める「いもいも教室」でも、その“ぷるっ”とをなによりも大切にしています。
――――—— “ぷるっ”ととは、どんな状態のことをいうのでしょうか?
井本先生:
目の前のことに夢中になった無防備な状態の時の、心の震えみたいな感じでしょうか。
何かに没頭している瞬間の人ってきっと、「ありのまま」なんですよね。
その状態を僕は、“ぷるっ”とと表現しています。環境に馴染めず委縮してしまっているような子が、目の前に現れた興味の対象を見て、周囲の視線を気にすることすら忘れて目を輝かせる、笑顔になるみたいな感じです。
いもいも教室誕生のきっかけは
流れに身を任せたから!?
――――いもいも教室をはじめられる以前は、神奈川県鎌倉市にある栄光学園で数学の教師をされていたと伺っております。学校という場だと、“ぷるっ”とを大切にした教育の実践は難しかったのでしょうか?
井本先生:
いえ、そんなことはありませんよ。むしろ栄光学園は、自分の思うように授業することを許してくれる、そんな自由な教育ができる学校でした。
僕の授業では、僕が「正解」を示すことをしません。
問題を出したら、解答が全部僕に集まる仕組みにしてあるので、「正答」「誤答」が僕のところに集まります。
そして次の授業では、それらを教材にして発問するのです。
正答も、そこにたどりつくまでの道のりは1つだけではありません。生徒たちはその「ありとあらゆる正解への道筋」が面白いと感じると、正解することよりも、自然とそのプロセスに目が向くようになっていくんです。
さらに面白いのが誤答で。
人って、自分の中の「当たり前」を無意識に根拠にして考えてしまいます。なので「絶対に正解だと思っていたのに間違えた」となることで、はじめて自分の中にあった無意識の「当たり前」に焦点を向けて意識化することができるんです。
また周りの人が自分の「正答」に感動してくれたり、「誤答」にうなってくれたりすること自体が、一番の承認になるので、そこでまたぷるっとが生まれるんです。
栄光学園はこのように、自分の思うように授業を試行錯誤することができたので、僕にとっては天国のような職場でしたね。
ありのままの“ぷるっ”とを
大切にすることで生まれるもの
――――井本先生のSNSを拝見していると、本当に子どもたちの表情がイキイキしているなと感じています。その表情を引き出せるのは、井本先生ご自身が“ぷるっ”とを大切にしてきたことも影響しているような気がしてなりません。
井本先生:
僕は単純に、子どもが自分の考え方ややり方で夢中になっている姿を見て、愛おしいなあと思っているだけなんですよ。
できるできないなんて気にせずに、子どもたちは自分のやり方でやろうとする時に、大人の想像をはるかにこえる面白い発想が生まれてきます。それが本当に自由で、楽しくて!
なんというか今の時代って、先の備えとして今何をすることが大切か、と考えることが是とされているじゃないですか。ミスが許されない、正解することが求められすぎているんですよね。
そうなると、自分の考え方、やり方でやらない方がいいとなりますよね。自分のやり方でやる。ということは、失敗を繰り返しながら試行錯誤することが前提なので。
教育の目的ですら、「いい子に育てたい」「子どものいいところを伸ばしたい」と子ども側を変えることに置かれていますよね。子育てに置き換えてみると分かりやすいんですが、世に出回っている育児ノウハウをいろいろ試しても、目の前のわが子は決して変わらない。でもいつの間にか親の方が変わっている。
教育や子育てで変わるのは大人側なんです。
――――今を生きることに全力を注ぐことは、自分の未来にも繋がっていく可能性を秘めているんですね。とはいえやはり、自分が将来どうなっているのか気になってしまうのも本音だと思います。
井本先生:
そうですよね。しかし時には、結果を出す、成功するといった価値観から外れて、自分にとっての「今」「ここ」を生きることが大切だと僕は思っています。
僕自身、流れに身を任せて生きてきましたが、その時々で、目の前にいる子どもたちとの縁を大切にしてきました。
僕が今もなお“ぷるっ”とを大切にできているのは、今を生きる天才である子どもたちの“ぷるっ”との瞬間に魅入られているからだと思います。
――――井本先生、ありがとうございました!
目まぐるしく変化していく現代社会において、さまざまな「これ、やっとくといいよ」「これからはこのスキルがものをいう」といった「未来への備えとなる情報」を知っておくことは、生きる上での武器になると思います。
ただそれは自分が本当に興味を持っていることなのか見つめ直すことも大切なのだと、井本先生から教わりました。
周囲の視線や世間一般の当たり前とされていることを気にせず生きていくのは、本当に難しいことです。ただもし、その時の自分がそれらを忘れてしまうほどの“ぷるっ”とを感じる出来事と出会ったのなら、その気持ちに正直に動いてみる。その今を生きた行動が、自分でも気づかないうちに未来への一歩になっていることもあるのではないかと思います。
▼先生シリーズは
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