人を感動させられないことは、ビジネスにならない

モノが溢れていると言われることの多い現代社会。
メイドインジャパンの、糸からつくる良質なオーガニックコットン製品を展開する株式会社アバンティは、オーガニックコットンブランド「PRISTINE(プリスティン)」のほか、さまざまなソーシャル事業も展開しています。
商品への高い支持はもちろん、モノづくりのストーリーや作り手の想いが顧客に共感を呼んでいる同社。その背景には社会へ対してずっと大切にしている眼差しがありました。株式会社アバンティ代表取締役会長渡邊智惠子氏にインタビューを行いました(2017年10月時点)。

1.事業内容 “共感を得るモノづくり”

アバンティ社長

- まずはじめに、アバンティさんの事業について、教えてください。

私どもの会社はメイドインジャパンにこだわり、オーガニックコットンの原綿を輸入し、その輸入した原材料を糸から、生地、最終製品までを日本で行っている会社です。
原綿を海外から買い、糸や生地を各専門の会社にオーダーをして作っていただいています。工場を一つも持っていない会社ですので、そういう意味からすると商社のような括りになるのでしょうか。自分たちの意思を持って一から百までをするという会社です。オーガニックコットンに特化し、麻やウールなども混紡しながら、すべての商品は少なくとも50%以上はオーガニックコットンを使った製品づくりをしています。

- 原綿の輸入や糸・オリジナルブランドの中で、現在メインの事業はなんですか。

 メインの事業は”製品”で、製品をつくること。そのうちの一つが「PRISTINE(プリスティン)」というブランドです。そのブランドがうちの会社の売り上げとしてはNo.1になっています。

- 「プリスティン」のウェブサイトを拝見しているとモノづくりのお話や、使用感のお話など様々なストーリーが書かれていて、コットンのイメージが湧きました。サイトのこだわりなどはありますか。

- 現在、商品は商品だけの魅力では売れません。バックグラウンドストーリーが皆さんの共感を得るものでないといけないと思います。モノをつくるそのバックグラウンドストーリーはどういうものか、うちの会社が理念として掲げていることはどういうものか、このブランドはどういう思いを持ってつくっているのか。ストーリーと我々の思いを共感してもらえるプロダクツをつくる、共感をしてもらえる会社でないといけないと思っています。

2.創業期のこと “始めて気がついた 事業の社会的意義”

アバンティ社長

- 「オーガニックコットンを世界に広めたい」という思いは創業当時からあったのですか。

いえ、最初はもうわけが分からなくて。独立したてだったので来るものは拒まずという感じで、それがどんな社会的意義を持つのか分かっていなかったです。「原綿を輸入してください!」「いいよ!」って。ふたを開けてみたら「え、世の中のコットンってこんなことだったの!」って思いました。だったら、オーガニックコットンをやって、気持ちのいいビジネスをした方が良いって。当時子どもはいなかったのですが、もし自分に子どもがいたとすれば、きれいな地球を子どもたちに残すのは当たり前だと思いました。そしてニューヨークやテキサスに行きファーマーたちに会うと、そこに嘘が存在しない。嘘がないところには無理がないし、無理がないところは継続する。

- 最初の頃は日本自体がオーガニックコットンを知らない状況の中で、少しずつ普及してきたと思われたのはいつごろですか。

1993年です。普及というか、日本の繊維産業の人に「オーガニックコットンやらないって馬鹿じゃないの」というくらいの風潮をつくりました。日本テキサスオーガニックコットン協会を作って、繊維業界の大御所たちが仲間に入り、「みんなでやろうよ」という機運をつくって「よっしゃ!」っていうのがその年でした。

でも1995年の阪神淡路大震災をきっかけに、すべてがストップしました。そこから全くゼロになって。でもちゃんと商社の人が、「在庫を持ってやるからやりなさい」って言ってくれて。「売れるだけ仕入れなさい」と言って下さった商社みたいに、本当の意味でのサポートをしてくれたことがこの会社を救ってくれました。

- 「プリスティン」を作られたのは、その頃ですか?
はい。およそ20年前にプリスティンというブランドをつくりました。10年くらい前から少しずつこのブランドが浸透してきたかなと思った時に、リーマンショックがあって。それで初めて7年前に赤字を出して。それでもうちの社員たちが立ち上がってくれて、経費節約班をつくってくれたんです。いかに節約していくかということを考えてくれて、翌年は売り上げは伸びていないのに利益が最大になりました。社員たちが自ら自分たちで経費節約をするという。実は、それが今でも続いています。「苦難福門」という言葉がありますが、本当に苦しい時を経たら、必ず素晴らしいものが来るという意味なのですが、赤字を出したことは、経営者にとっては本当に苦難だったけど、それを社員たちが自分たちでやってくれたことというのは、私にとっての福門であったと思います。

3.ユニークネス1 “経営理念への共感度”

アバンティ社長
- 経営理念の共有はどういう形でされていますか。

毎朝の朝礼で唱和しています。基本理念は「敬天愛人」で、経営理念は「オーガニック製品を通して地球環境の保全と社会貢献をする」こと。行動指針は、社会倫理に照らし、人として正しいと思うことを実践することです。

- これを毎日唱和することによって改めて毎日感じる。

毎日唱和をする、やはり声を出すということは、必ず血肉になることだと思います。言葉に出す、声に出すって、すごく脳にインパクトがあります。朝礼でみんなが大きな声でそのことを言うということがすごくいいことだと思っています。始めてから、15年くらいになると思います。

- 組織運営として大切にしていることは何かありますか。

今、ここ(オフィス)は社員が全員一緒ですよね。社長や取締役とかが一緒になって、社員の顔色を見ることができる。このワンフロアでみんなの顔が見えるということのメリットを最大に活かしたいなと思っています。

- 渡邊さんご自身のサイトも拝見させていただいたのですが、経営理念に対する共感が、働く社員にとってもすごく大切なのではないかと勉強させていただきました。

我々は、常に「社会といかに結びつくか」ということを大切にしています。「会社」というのは「社会」があって初めて存在します。社会の中における、いち会社です。それを構成するメンバーが社員。そう考えた時に、組織の中で一人だけが利益を一人占めするようなことはあり得ない。世界の中で国を制していこうというような野望を持っている人にとっては、相手を蹴散らしてでもナンバーワンになるという言い方があるかもしれないけれど、そうじゃないよねって思っています。会社って社会の一員だし、社会にとって利益がもたらせることは当たり前じゃないかって。経営者だったら、出来るだけ環境へのダメージを与えないようにしていくことは、経営者だったら当たり前にならないと、この世の中は良くはならないと思っています。青臭いかもしれないけれど。

だから、うちは「四方良し」という行動指針があります。「売り手よし、買い手よし、回りよし」という日本人の商売する原点。この近江商人の三方良しというのが基本に流れている日本人の経営だと思います。私どもの会社はそれにプラス、「作り手良し」というのを入れています。私たちは工場を一つも持っていない。農家でもない。ということは、原綿を栽培してくれる農家の人がいて、糸をつくってくれる紡績会社があり、生地をつくってくれる織布のニッターさんの会社があり、そして製品をつくってくれる縫製工場がある。そういう「作り手」さんがないことには、うちの会社は社員を食べさせることが出来ない。もちろん、売り手がなければいけないことだけれど、もっとその手前に作ってくれる人達がいなければ私たちは一歩も前に進むことが出来ないということを、行動指針として、社員全員で毎日唱和しています。

4.ユニークネス2 “問題を見極める 曇りなき眼(まなこ)”

アバンティ社長
-以前、貿易会社で働かれていて、その時に「何のために働いているんだろう」という気持ちがあった、という記事を見ました。

 私の祖母が、いつも「お天道さんが見ているよ」という言い方をしていました。「見てないからいいよね」ということはいけない、ということを小さい頃から言われ続けていて、私の一番の基本になっているんです。今こうして元気に仕事が出来るということは奇跡だと思います。昔から私はあまり病気をすることなく、きっと人の二倍くらいの元気さをいただいていると思います。それは、何のためなんだろうと。普通ならあちらこちら痛いとか悪いとか、自分のやりたいことも出来ないような環境もあるし。自分はこういう夢を持っているけどそれをやれない問題があったり。色々な周りのハードルが高くてなかなか自分の思いを形にすることが出来ない環境の人ってたくさんいると思います。

私は幸いなことに、健康だし、そういう私の夢を引っ張るような環境もないし、それと同時に自分の周りにすごくたくさんの友人たちがいるし、うちの会社をサポートしてくれているたくさんの人達がいる。そんな奇跡を、私一人で一人占めしてはいけないよねっていつも思っています。もしも自分の利益のためにその奇跡を使ったらきっと後々いろいろなしっぺ返しが、自分の子どもとか、自分の未来へつながっている人たちに悪影響を及ぼすんじゃないかと思うと、今自分のやっていることは、自分一人のためではないと思っています。

-なるほど。

「公明正大」な理由があって、私はこの仕事をしている。「公明正大」なことをしない限り実は色々な人からサポートはもらえません。何のバックグラウンドも、親の七光もなく、例えば私の天才的な何かがあるわけではなくという私が、こんなふうにしてオーガニックコットンのパイオニアだと言われている。私は自分一人の会社でそれをやったわけではなくて、それをサポートしてくれる人たちがあって初めてできたことなので。それをサポートしてくれる人たちがいるのはなぜかというと、私が今やろうとしていることが「公明正大」だからと思っています。「オーガニックコットンを広めたい」って、「公明正大」じゃないですか、コットンの裏側を見ると。なぜみんなそれをしないのって。私はこんなに社会問題を解決することなのに何でやらないのって。逆にやらないことがおかしいなと思っています。

- 現在、「東北グランマの仕事づくり」などの事業をされていると思いますが、ソーシャルビジネスの中で、どういう位置づけでやっていますか。

基本は、社会問題をビジネスで解決するということが私のスタンスなので、東北グランマの仕事づくりも利益に必ずつなげていきます。ただ単に予算をとって支援しているということではなく、一緒にビジネスをしていくことが、基本スタンスです。

- 災害が起こった後、人々の関心は風化されてしまいますが、東北グランマの仕事づくりは、その難しさに直面すると感じられていますか?

とんでもない風化だと感じています。初年度2万5千個売れたクリスマスオーナメントが次の年には8千個、その翌年には2千個。いかに皆さんの気持ちが東北から離れているかということですよね。ですから、そこは常にSomething New。みんなの意識が薄くなっている中で、同じことをやっていたら熱も冷めます。そういう中で「これでもか、これでもか」と今いるお客さまに提案を差し上げているということです。

2014年のソチオリンピックが開催された時に、東北グランマ達の仕事がとても上達してきた中で、アスリートの皆さんにグランマの作った帽子とスヌードを送りたいと思いました。東北の人たちがこれを一針一針作り、エールを送ってくれているということが選手の人たちのエネルギーに変えてくれるんじゃないかと思ったのです。それに、東北のグランマにとっては、自分がつくったものをフィギュアスケートの浅田真央さんが着ていたとなると、すごく嬉しいじゃないですか。我々は何をもって、社会問題をビジネスによって変えていくのか。みんなの中で風化していく東北に対して、「違うよ、まだ全然復興していないから」ということを感じてもらうこと、もちろんたくさんやることはあるかもしれないけど、私たちが出来る最大はそれだと思いました。

- これから何に焦点を当てていけばソーシャルビジネスが伸びていくと感じていますか。

「ボーダレス」だと思います。ボーダレスというのは人間が持っているボーダーです。みんなそれぞれに自分の経験値からとか、この会社の位置づけとか、そういったことで自分たちでボーダーをつくっている。そのボーダーをいかに乗り越えるかということ。世の中もっと広いよね、こんな考え方もあったのかって、そこに共感できる自分の精神状態を持っていることが大切だと思います。。だから、認め合うこと、許し合うこと。これからのキーワードは「包容」です。認め合うこと、許し合うこと。それがないとみんな自分で変化を求めない。居心地が良いから。だけど、そこに変化を求めて違う世界も認める包容力が欲しい。そこからが、Something Newなんです。

 勝手に自分がつくるボーダーって、目に見えないところにたくさんあると思うし、それは世の中においてもそう。そこにあえて立ち向かっていくということがわざわざ難しいビジネスをする、わざわざ社会問題を解決するためのビジネスをするという意図というか、意義だと思います。

問題を見つけて、それを何とかビジネスによって解決すること。そのためには常にその問題というのを見極める自分の「曇りなき眼(まなこ)」がないといけない。問題が見つけられないと解決の糸口も見つからない。だから、一番の問題は自分の中にあるボーダーです。そのボーダーというのは変わりたくない、今の現状をキープしたいという人間の持っている本質だから、そこと戦うことです。

5.今後のビジョン “認め合うことで、感性を育てる”

アバンティ社長
- 渡邊さんが今後チャレンジしたいことは何ですか。

実は、湯水のごとくたくさんあって(笑)。毎年のように新しいことをスタートさせているし、去年(2016年)は、鹿害をどうやってビジネスによって解決できるかということで「森から海へ」という新しい財団法人をつくりました。その次は「22世紀に残すもの」という財団法人をつくりました。みんなで目の前の石ころに右往左往するのではなくて、もう少しロングタームで物事を考えて行動する。それをいろんな人たちに促すための財団です。これを何とかちゃんと本格的に稼働できるようにしているつもりです。

- 「ソーシャルビジネスコンテスト」などの審査員もご担当されていると思いますが、ここ数年で社会の変化を感じることはありますか。

私は期待度をこめて「今の20代の感性をもっと持ち上げていくこと」が必要だと思っています。私は、スーパートゥエンティという言い方をしますが、この20代の人たちの持っている感性、コミュニケーションのとり方、情報の取り方、発信の仕方は私たちの手に余ることだと思っています。それを我々がどうやって活用していけるか。これからの20代をみんながもっとウォッチしていく。彼らの言動をもっとウォッチしていくことは必要じゃないかって。要するに、これも認め合うこと。許容することが必要だと思っています。

6.働く哲学

アバンティ社長

- 最後の質問です。渡邉さんにとって、「働く」とはどういうことですか。

私にとって、「働く」とは「人生」です。働きは最上の喜び。働きが私を育てているというか、仕事が私の人生だし、仕事が私をつくってくれています。それ以外にはありません。私は、そう思える人たちが増えると良いなと思っています。自分の仕事をお金のためだけにしていたらつまらない。自分の人生をかけるんです。自分の人生をかけなかったら良い仕事にならないし、人を感動させることなんてできません。人を感動させられないということはビジネスにならないということ。自分をかけるしかないんです。仕事がやっぱり自分の人生なんです。

「社会といかに結びつくか ということを大切にしている」と仰った渡邊さん。アバンティのつくる製品、掲げる理念、事業展開などすべてには、その眼差しが根幹にあることを強く感じました。『公明正大さ』のもと、変革も厭わず新しいことへ飛び込んで行く同社の、今後の展開が楽しみです。

アバンティ社長

渡邊智惠子(株式会社アバンティ 代表取締役社長)

1952年北海道生まれ。明治大学商学部卒業後、株式会社タスコジャパンに入社。1985年、アバンティを設立。社会課題を解決するための財団法人を複数立ち上げ、ソーシャルビジネスコンテストの審査員も務めている。

この記事をシェアする