年々深刻化する環境問題。そして、東日本大震災で起こってしまった原発事故。
「誰が未来に対して責任を取るのか」限りあるエネルギー資源を使い続けることに疑問を持ち、「エネルギーから世界を変える」という理念のもと、2011年に設立されたのが自然電力株式会社です。
企業勤めから一念発起し、自身で電力会社を設立するに至った経緯、企業の経営理念について自然電力株式会社代表取締役磯野謙氏にインタビューを行いました。
1.震災がすべてのきっかけ
―2011年6月に創立されていますが、当時一緒に始められたメンバー3名と、どのように事業を始めることになったのでしょうか?
実は、今の会社を立ち上げる前にも、この業界にはずっといました。その頃一緒に働いていた同僚3人でつくったのが自然電力です。
すべてのきっかけは東日本大震災でした。その時、原子力発電所の事故などを見て、「未来の責任をだれが負っているのかよく分からないな」と思ったんです。だったら自分たちでできることをやろう、と始めたのが自然電力です。だから、「人のせいにしない」ということを創業メンバーは大事にしています。
自分たちにできることというのは「自然エネルギーを増やすこと」でした。それをやる会社をつくろうということで、独立して今の会社を設立しました。「無責任な大人になりたくない」という思いが強くて。
―震災がなければ、起業するという選択肢はなかったかもしれない
そうですね。やりたいという気持ちはあったとしても「エネルギー事業を自分たちでゼロからやろう」という強い気持ちにはならなかったと思います。
震災当時、僕は東京にいて、この先がどうなるか分からないという不安を覚えました。何が起きているのかもよくわからない。みんながみんな人のせいにしている、という印象を受けて。
その時、僕は30歳でした。僕たちの世代は、30年後も40年後も、健康でいれば生きているはずです。だったら「僕らの世代で、責任をもってエネルギー事業をやらないといけないんじゃないか」と思ったんです。震災がきっかけで、そういう強い気持ちになりました。
2.エネルギー業界の未来に出逢う
―事業が軌道に乗り出したと感じたのはいつ頃からですか?
2012年12月に、初めてのメガソーラー(大規模太陽光発電所)が完成したのですが、それからですね。地元企業の社長が、僕たちの事業に共感してくれて。
2012年7月に、再生可能エネルギー固定価格買取制度が始まったことも追い風となりました。
―2011年に創業されて、2012年に新制度が導入されたというと、すぐに軌道に乗ったという感触でしたか?
2011年6月から、最初の案件が完工する2012年12月まで1年半ありますからね…。1年半、少し仕事はいただいていましたが、大きいものに関しても売り上げが1,000万円いかない状況でした。3人とも、1年半はほぼ収入はありませんでした。
―現在のビジネスモデルは、実際に運営していきながら決定されたのですか?
そうですね。「自然エネルギーが増えていく」ということ自体には確信がありました。
どんな形であれ必ず増えるし、僕らは若い頃にその業界で経験を積んできたという自信はありました。26、7歳当時から、自然エネルギーの大きなプロジェクトをまわしてきましたので、少なくとも、30代の中では最も自然エネルギー事業のことを知っている3人だと自負していました。収入がない中でも、これから事業の規模がどうなっていくか、これくらいはできる、という感覚は持っていました。
―以前勤めていた会社ではできないけど、新しく自分たちの会社ではできると思ったものは、何だったのでしょうか?
ビジネスモデルそのものです。これまでの経験から、改善できるポイントを得ていました。
それが「アセットを持たない」ということです。アセットというのは「発電所」のことなんですが、最初から自分のところで発電所を所有しようとすると、お金がいくらあっても足りないんですね。
だから、創業当初は、発電所は誰かお金を持っている人に所有してもらって、それに対してサービスを提供するというビジネスモデルにしました。ビルの所有者ではなくて、それ以外の全部をやるというイメージですね。
エネルギーの業界では、アセットヘビーが当たり前です。不動産ビジネスも含め、資産ビジネスはみんなそうなっています。
―でも、エネルギーでは新しかった、と。
日本では新しい試みでした。それまで日本では、そもそもエネルギー業界に民間企業や資金力の大きくない新規企業がどんどん入ってくる、ということ自体がなかったので。でも、世界ではごくごく当たり前のことです。
―パートナー提携をされているjuwi(ユーイ)も同じようなモデルなんですよね。
彼らも似ているモデルです。僕たちの会社は、彼らから学んだところが大きいですね。juwiとは、出資比率が50:50のEPC(設計・調達・建設)を行う合弁会社を設立しました。良い仲間との出会いだったと思います。
―ちなみにjuwiさんと一番初めに出会ったときは?
日本でまだ仕事もない時で、何か参考になるものを得られればとふらっと訪問したのがきっかけでした。創業者3人で、ドイツへ行って。以前から感じていたことは、日本には自然エネルギーのノウハウが少ないということでした。自然エネルギーのマーケットもごく小さかったので。
じゃあやっぱりドイツから学ぶべきだろうと思って。ドイツでトップの自然エネルギーを何社か回りました。
―その中で、juwiさんが共感してくださったという。
そうですね。もともと、合弁会社をつくろうと思ってドイツに行ったわけではなかったのですが、juwiと出会い、衝撃を受けたんです。
彼らの本社に行った瞬間に、「エネルギー業界の未来はここにある」と僕ら創業者3人が、同時に同じことを思いました。
―それは、技術の面でですか?
いえ、技術の面ではなくて、エネルギーがライフスタイルになっているというか。Googleのエネルギー版とでもいいましょうか。
本社が、めちゃくちゃかっこいいんです。とにかくオシャレで。日本だとエネルギーの業界って、歴史のある会社が多いのですが、juwiには「未来の会社」の姿が見えました。熱効率を最大化した省エネのオフィス、周辺では太陽光パネルや風車が発電をしていて、電気自動車用のスタンドも設置してありました。社員食堂では地元の農産物を取り扱い、社員や地元に開かれた企業内保育園も運営している。いわゆる「エネルギー事業」のイメージとして日本で感じていたものとは全く違っていました。
―その場で話されて、合弁会社をつくっていこうという方針が決まったのですか?
いや、全然(笑)。まずはちょっとやってみようか、みたいな感じで。何より当時、僕らには企業としての実績はありませんでしたから。ちなみに、juwiが太陽光事業に関しては世界で二番目の実績をもつほどの規模の会社だと知ったのは、合弁会社をつくった後です。(笑)
彼らは、僕たちの話を聞いてくれる時に、電力会社として経験があるかどうかという「箱」としてではなく、想いのある「個人」として接してくれたんですね。それがとてもありがたかった。だから、「仲間」ができたという思いで、とても嬉しかったです。
3.自然エネルギーで地方も活性化
―太陽光や風力、小水力の事業も取り組まれていますが、メインの事業は太陽光ですよね
メインは太陽光で、風力がここ5年で大きくなっていきますね。小水力、バイオマスも少しずつやっています。今後は、電気の販売も行っていきます。発電事業と小売・卸を含む電気の販売が、国内事業の2つの軸です。
(薩摩川内開拓跡地太陽光発電所)
佐賀県唐津市の風力発電所建設風景(風車用タワー組み立て中)
―現在、どういったお客様が多いのでしょうか?
わたしたちは、自然エネルギー発電所をつくり、発電・売電するまでのすべての事業を行っているので、お取引先・お客様というのは多岐にわたります。用地となる土地のオーナーの方や、発電所のオーナー、また電力をお売りする先となる地域の電力会社、そして今後、電力を販売するとなると、一般の方まで…と広がりますね。
そういう意味でいうと、我々の事業は、そういう様々なプロセスを誰と一緒にやっているかということが大事です。100%自分たちでやっているものもあれば、パートナーやユーザーがいて成り立っているものもあります。例えば、パートナーの中には、地元の企業や自治体もいらっしゃり、共同出資をしている事業もあります。そういうプロジェクトでは特に、地域の活性化に向けて一緒に取り組んだりもしています。
4.多様性が強み
―自然電力さんでは、60代以上の方を「マスターズ」と呼ばれて、大変ご活躍されていますよね。マスターズの方々は、どういう風に自然電力さんに参加されるのですか?
大手の電力会社や工事会社、エンジニアリング会社などから入社された方が多いですね。紹介などで自然電力に参加してくれています。彼らは、日本が国としても海外での事業拡大に挑戦していた時、まさに真っただ中で活躍された世代で、高い国際競争力を持っていらっしゃいます。だから、マスターズの方々と一緒に働きたいと考えたんです。
―外国人のメンバーの方々も多いようですね。
現在は、10カ国以上の社員やインターン生が自然電力グループで働いてくれています。弊社の事業を面白いと思って来てくれている人が多いですね。もちろん難しさはあると思いますが、文化や世代の多様性は、自然電力グループの強みだと思っています。
―組織が大きくなる際に、経営者としての難しさはありましたか?
そうですね。組織が30人程になった時くらいに、チーム運営としての成長痛のようなものはありました。
公平性を意識してルール化したり、「働きやすさ」を意識したり。それは変化とともに当たり前に起こることだと思います。そして、経営者として「決める」ということに対して高い意識を持たなければいけないと思いました。
5.社会的な価値を残したい
―磯野さんにとって、「働く」とはなんでしょうか?
難しい質問ですね。私にとって「働く」とは、「社会的な価値を残すこと」です。
私は働いている中で、素晴らしい人々に出逢うことができました。その出逢いによって、自分自身も成長できたのではないかと思います。
だから、僕は「働く」ことがすごく楽しいんです。自分が苦手なことでも、それが得意なメンバーがいる。だから、彼らに任せることができる。実際、自然電力グループのメンバーが増えることで、どんどんやれることが増えてきたということを実感しています。
数ある社会課題の中でも一際壮大で、自分ごととして考えづらいのが「エネルギー問題」ではないだろうか。そんな大きな課題を自ら解決する、という大きな理念を掲げながらも、日常会話を話すかのように慎ましやかに語ってくださった磯野氏。自然電力株式会社が、世界に向けて新たなライフスタイルを提案する日も遠くない。
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、株式会社リクルートにて広告営業を担当。その後、風力発電事業会社に転職し、全国の風力発電所の開発・建設・メンテナンス事業に従事。2011年6月、東日本大震災を機に自然電力株式会社を設立し、代表取締役に就任。主に風力開発や新規事業を担当。