「この企業がなくなってしまったら、社会全体にとって損である。」
そんな企業を応援するために、たった一つの金融商品を売る企業運用会社があります。従来の投資のあり方を根本から変え、社会的課題を解決する企業を応援する鎌倉投信株式会社です。
前職では外資系の運用会社で、バリバリの金融マンをされていた新井さんは、どのような思い想いで創業し、現在の金融の仕事に取り組んでいるのでしょうか?鎌倉投信株式会社ファンドマネージャーの新井和宏氏にインタビューを行いました。
1.お客様と「繋がる」金融
―鎌倉投信さんの事業内容について教えていただけますでしょうか。
鎌倉投信は投資信託の、運用と販売の両方をやっています。野菜の産直と同じで、銀行や証券会社などの販売会社を通さず直接販売で、自分たちから買ってもらっています。
私たちは「見える関係性」、つまり、お客様と「繋がる」ということを大事にしています。販売会社を通してしまうと、どうしてもお客様の顔がわからなくなってしまうんですね。お客様と繋がって、そこから広がっていくということが私たちにとって重要なので、直接販売にこだわっています。
―鎌倉投信さんには、運用・販売している金融商品が「結い2101」しかないということですが、ここには強いこだわりがあるのでしょうか?
そうですね。様々な金融商品を取り扱うという考え方もあるんですけが、多くの場合、色々なお客様のニーズに答えて商品を提供するというよりも、お客様から見てわかりやすいものを提供するということの方が重要とされます。その上で、商品が売れるか売れないか、うまくいくかいかないか、です。
私たちはそうではなく、「商品に責任を持ち、うまくいくようにする」ということがやるべきことだと考えているので、一つに絞ってやっています。まあ、勇気がいりますよね(笑)。それが売れるかどうかわからないわけですから。
2.従来の金融のあり方に疑問
―新井さんは前職で外資系の金融機関で働かれていたということですが、そこから創業までのストーリーを教えてください。
前の外資系の会社の同僚で、運用会社を始めようと言いだしたのが今の代表の鎌田なんです。
その彼が最初NPOをやりたくて、いろんな人の話を聞いて回っていたんですけれども。その時わかったことがあって。それは、「金融がちゃんと機能しないと、社会は豊かにならない」ということだったんです。
だから、彼は自分がこれまでにやってきた金融をちゃんとやろうと決めたんですよ。もともと運用会社にいましたから、それでは運用をやりましょうということにしたんです。それで、ファンドマネージャーを誰にするか、という話で、彼が指名したのが私だったんです。
なぜ私が指名されたかというと、2007年の夏に、私はストレス性の難病で、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)という名の病にかかったんです。医師からは7年は治らないと言われて。「どうしたらいいですか?」って聞いたら、「ストレスだから、会社を辞めるのが一番だねと言われました。
それで、辞める決意をして、引き継ぎなどで辞める準備をしているときに、鎌田から声がかかったんです。最初は断ったんですよね。だって私は、ストレスで病気を抱えていて、金融マンを辞めようとしていたんですから。
それと、私はスキーが大好きで。辞めた後は自分の好きなことをやって、外資系で稼いだお金で悠々自適に過ごすつもりだったんですよ。それで、一所懸命長野や北海道の不動産物件を探してたんです(笑)。一応こう見えてもスキーの指導員もできるんですよ。今も障碍者のスキー指導をしたりしています。
そこに、「お前、社会のために何かやりたいって言ってただろう、もう一回金融やらんか?」って言われても、やる気にならないでしょ?普通は。それが誘われた時の第一印象ですね。即答で「やりたくありません」って言いましたよ(笑)
―そこから何が変わったんですか?
2008年に出版された本、「日本でいちばん大切にしたい会社」に感銘を受けたことですね。こんなに素晴らしい会社が日本にあるんだなって思いました。
自分は金融マンを15年以上やってきたけど、これまでそういう会社を応援することとかできなかったなーって思ったんです。もし本当に、そういう会社を応援する仕組みが提供できるんだったら、それはお客様が喜ぶだろうと思ったんです。だったら、最後のご奉公でやろうかなという風に思って決めました。
3.主役はお客様と企業
―創業時にどのように理念を決めたのですか?
創業時の志で、3つの「わ」というのがあります。
日本の「和」。サークルの「輪」。対話の「話」。ですね。この3つの「わ」ができる「場」を提供するというのが私たちの志です。
「和」というのは、日本の普遍的な価値を感じられる場を提供すること。「話」は、会話や言葉が満ち溢れているようなそんな場を提供すること。「輪」はサークルなので、繋がって広がっていく場を提供すること。こういった、場に徹することを大切にしています。
それが何かというと、単純なんですけども、金融資本主義の否定なんです。今の資本主義において、投資のあり方は金融が目立ち過ぎだと思うんです。本当の主役は、リスクを取ってお金を出してくれている「お客様」と、そのお金を使って活動している「企業」なんですよ。
金融は、あくまでその「場」を提供しているだけであって、それ以上でも以下でもないんです。だから繋ぐ機能をしっかりと創る。で、その場を清めるじゃないですけど、そういう人たちが集まる場を管理するということが金融機関の本来の仕事だと思っています。だから、私たちは目立ちません。裏方に徹しています。
―金融商品って正直血が通っていない冷たいイメージがあったんですが、鎌倉投信さんはそれとは真逆のイメージですね。
そうなんです。私は「あたたかみ」のある金融を創りたかったんですね。
ちゃんと社会の役に立っているという実感を持ってもらえるものを創らないといけないと思っています。つまり、「見える関係性」が重要なんです。要は、何にお金が使われているのか。お金を出した先がどうなっているかを見えるようにすることが大切なんです。
それは、私たちも一緒で、お金を出して儲かればいいという話ではなくて。そのお金がどういう風に使われているのかを「見える化」しないと、次に繋がらないんです。だから、投資先をすべて開示して、投資先がなぜ「いい会社」なのか、ということを伝えようという前提で動くようにしたんです。
そこで「投資をします、見える化します、投資先はずっと変えません」といっているわけですが、こんなので儲かるのか?という話になるんですね。だから、「新井は病気になって、頭もおかしくなっちゃったんじゃないか?」て言われたぐらいですよ(笑)。
それでもしっかりとリターンはでるという形でやっています。お陰様で、2014年には「R&Iファンド大賞2013」の最優秀賞をいただくことができました。
―個人のお客様はどんな方が多いですか?
お客様は、単純にこの仕組みが好きだ、とか、投資先を応援したいという人が多いですね。すごい場合には「その他」に丸がしてあって、「寄付」って書いてあったりするんですよ(笑)。
そういう意味では、お客様が一番素晴らしい。現在、お客様が17,000人近くになっていますが、そういう人たちがこの日本に増えていくことは、本当に素晴らしいことだと思います。
みんなが一人ひとり結果だけで勝負するというよりは、共に生きていかなきゃいけないっていうような、そういった考え方や価値観が醸成されてきたと思います。そもそも日本人にはそういうものが内在されていると思うんです。
それは「三方良し」という言葉にも表れていますけれども。一人勝ちしないで、みんなで一緒に、という価値観があるから、受け入れてもらっているんじゃないかなと思います。
4.「いい会社」の共通項
―新井さんはこれまで多くの会社をみてこられたと思いますが、「いい会社」の共通項はありますか?
綺麗事だけではダメで、人がいきいき活動していることも大事だし、そこに地域も含めて社会と関わっていく部分が必ずあって。それを大事にしていないとダメだと思います。だから、ビジネスモデルもしっかりしていないといけないということになってきます。
ただ、一番重要なのは、やっぱり「人」なんですよね。
よく申し上げるんですけれども、「会社」という「人」はいないんですよ。要は、そこにいる人たちが会社の代表なので、その人たちの個性の集まりが、結果、その会社になるんです。
だから、その人たちがいきいき働いていないのであれば、結果が出ないのは当たり前の話です。それは、会社に行くと雰囲気でわかるんですよね。
なぜその会社が社会に必要とされるかということが大事です。いつも私たちが「いい会社」を選ぶ基準というのは、これからの社会に必要とされる会社なんです。そして確実にいえることは、それは「社会的課題を解決する会社」なんですよ。
私たちがいつもいうのは、日本は「課題先進国」だということです。日本は複雑骨折したように、課題に溢れています。そんな国はほかにはありません。その課題が解けたら世界最先端のソリューションになるはずです。
例えば、私たちのファンドのようなかたちは世界には他にありません。環境だけの問題だったら、エコファンドは海外にもあるし、CSRに特化したファンドもあります。
でも、日本には日本固有の問題がたくさんあるので、これに対応してくれる会社さんたちが増えない限り、やっぱり社会は豊かにならないんです。そして、なぜ日本の株式市場が「失われた20年」といわれてずっと株価が上がらなかったかっていうと、企業の業績が悪いんじゃなくて、将来に期待が持てないからなんです。
そうだとしたら、そういった社会的課題を解いてくれる会社さんに、お金を投資するべきだと思うんですよね。
私が鎌倉投信で一番幸せだなって思うのは、「お金を預かって幸せで返す」ということです。「お金を預かってお金で返す」のは、運用会社でもずっと業界でいわれているんですけど。
お金をいくら増やしても幸せにならないという自分の実感があったから。幸せになるためには自分の財産も増やさなくてはいけない、社会も豊かにならなくてはいけない。そして、自分のお金で社会を支えているというように、その心が豊かにならなくてはいけない。この3つが揃わないと、真の幸せはやってこないんですよ。
だから、みんなと一緒に幸せになる。そのために社会的課題を一緒に解決する。その行為は「鎌倉投信」だからできるんだと思うんです。
5.幸せを手にいれるために「働く」
―新井さんにとって「働く」とはどういうことでしょうか?
難しい質問ですね。働くことで、「人の役に立つ」ことは確かに間違いない。そのために働いていると思うんですが、結果的に、本人が幸せになれると思うんです。究極の幸せというものがあるとすれば、私はこういうことじゃないかなと思っています。
まず一つは愛されたい人から愛されること。
もう一つは、尊敬していて褒められたいと思える人から褒めてもらうこと。
この二つ目が、働くことで実現できると思うんです。「お前のやっていることは素晴らしい」と。それが「働く」ということではないでしょうか?逆にいえば、その幸せを手に入れられるには、働くことしかないんじゃないでしょうか。私は両方とも手に入れることができたので、とても幸せですね。
そう考えると、自分は病気になって初めて気づきましたが、今こういった仕事ができて運がよかったなと思っています。こういう風になれたんだから、どこまでも人のために尽くさなければと思っています。
投資を通して「幸せ」を提供する鎌倉投信。課題解決に取り組む企業や、それに賛同する17,000人のお客様のお話を聞いていると、新しい投資信託の形が世の中に求められていることがわかりました。従来の投資の仕組みに疑問を呈し、新しい投資のあり方を提示する鎌倉投信もまた、「大切にしたい日本の企業」だと感じるインタビューでした。
1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)に入社、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)に入社、ファンドマネージャーとして数兆円を動かした実績を持つ。2007年、大病を患ったことをきっかけに2008年、志を同じくする仲間4人と、鎌倉投信株式会社を創業。