「ぜんいん社長合宿」、「サイコロ給」、「旅する支社」・・・。ネーミングもさることながら、内容も面白い企業制度や行事の数々。

その奇想天外な企画の裏には、経営者のどんな哲学や思想があるのでしょうか?創業から19年、不動産事業やゲーム音楽事業、ウェディング事業など、さまざまな業種に取り組む面白法人カヤックの代表取締役 柳澤大輔氏にインタビューを行いました。

1.複雑なルールは一切なし

ビジレザPRESS-面白法人カヤック柳澤大輔氏インタビュー

―カヤックさんといえば奇抜な制度が会社の代名詞にもなっていますが、評価方法やサイコロ給などを考え始めたのはいつ頃からですか?
 
創業時です。自分の原体験があって、自分のサラリーマン時代の「こういう会社は嫌だな」ということはなるべくやめようと思って。朝礼なども嫌ですね。

―朝礼以外で、これは排除しておこうと思ったものは他にも何かありますか?
 
複雑なルールですね。ルールを作るなら「これをしよう」というルールではなくて、「これだけはやらない」というルールだけがあって、あとは自由にやって下さいと。だからルールはまず少なくしています。でもやっちゃいけないということだけはしっかりある。

勝負の時には、美学があると思います。例えば、スポーツをする時に、「これだけはやらない」、ということを守る人は、美学がある人。逆に、これをやるということを決めていると、柔軟になれずに、勝てないんですよね。

ルールは少ないほうがいいし、やらないことだけを決めて、あとは自由にしたほうがいい。それに、「これをやれ」というのはやる気が起きないのかなと。

―柳澤さんの中で、会社として「これだけはやらない」ということは、何かあるのでしょうか?

そうですね。「採用基準を変える」というようなことはやらないですね。どれだけ事業計画上、人が必要だと言われても、その基準を落としてまで増やすということはないですね。そこはこだわっています。

あと、残虐なことはしたくないと考えています。Googleは、本当にすごい会社だと思うんですが、経営理念で明確に「邪悪なことをするな(Don’t be evil)」ということを言っています。「悪いことをするな」というのは、実は非常に難しいと思うんです。

何が正しいか悪いか、というのは別の視点から見ると全然変わってきますから。でも、邪悪というと誰でも分かるし、「邪悪なことは最低限やめよう」というように聞こえるんです。

それは非常に素晴らしい理念で、企業をやっていると一線を超えるようなことがいろいろと出てくるじゃないですか。そういう時に、これは悪いとか良いとかじゃなくて、邪悪という言葉でセーブがかかるから、Googleという企業は本当にすごいなと思いますね。

―給与を決める「月給ランキング」という制度がありますが、具体的にどのように運営されているのですか?

月給ランキングは、職種で固めるというのがポイントです。自分が社長になったつもりで、誰を多くしたいかということをやるんですね。

結局、実力というのはその人の職能によるものだと思っているので、僕なら経営者という職能で評価されるべきです。デザイナーはデザイナーとして評価されるべきだし、プロデューサーはプロデューサーで評価されるというように、「職能」でくくるということが非常に重要です。

―なかなかこういう評価をする会社はないのでは、と思ってしまいますが、最初の構想はどのように考えられたのですか?

単純に、まず一つは、自分の評価をされるわけだから、自己評価がありますよね。自分の給料はいくらです、というやり方もあると思うんですけど、それを実際やっていた会社では、弊害もでてきたと聞いています。

自分で自己申告して決めるのは難しいから、じゃあ他者評価で決まると。その時に一人で上司が決めるみたいな、この人があなたの給料を全て握っていますというやり方と、複数で決める、どちらが良いかというと、複数だと思うんですね。

上司、部下と全部だろうと、全方位的にやるのが一番良いということで、「全員で決める」ということが、まず決まりました。みんなで決めるという時に、じゃあどういう人が決めたら一番納得するかと考えた時に、納得する上司だったら聞かざるを得ない。そこで何が納得できるか、というと同じ職種なんです。

エンジニアがデザイナーには評価されたくない、エンジニア同士だったら良い、ということから、それが生まれてきました。

みんなが社長になったつもりで並べてみようって言ったら、その会社が最も大事にしている価値観とかが含まれてくる。やっぱり実力がある人にはみんな一目置くし、でも実力がある程度高くても自分のことばっかり考えている人にはあげたくない。

職種ごとに価値観がみんなそれぞれ微妙に違うけど、集合体で決まっていくからその企業が持っている最も大事な価値基準になる、ということが分かりました。

オープンにするかしないか、という発想もあると思います。ちなみにカヤックはオープンで、金額までは出ていないですが、A、B、C、S、SSなど、つけたランキングが七段階まで公開されます。それもそうしないと納得感がでないというか。ランキングを見た時に、この人との差は何かな、ということを自分で考えてもらうしかない。同じ職種でやっているので、なんとなくこの順番だな、とみんなが納得するんです。

ビジレザPRESS-面白法人カヤック柳澤大輔氏インタビュー
(サイコロ給ゲーム時の風景)

2.プロセスも含めて素晴らしい企業を目指す

ビジレザPRESS-面白法人カヤック柳澤大輔氏インタビュー

―カヤックさんでは「鎌倉資本主義」を掲げていらっしゃいますが、その考え方に至った経緯を教えてください。

経営者という職業を突き詰めて考えた時に、経営者というのは会社を大きくしたらすごい、ということになるので、そこにものすごく対峙していくわけです。

そうすると、それが最優先になっていくわけで、どんなことをしても、どんな手を使っても大きくしよう、ということになります。そう考えた時に、その方向感が時代と沿っていないというか。

高度経済成長期であれば、それだけで楽しい時代だったのかもしれませんが、そこがそもそもしにくくなっているから、その中で一生懸命大きくしようとすると、ハレーションが起きてきますよね。何か違う形の幸せを見つけないといけなのではないか、という狭間の世代だと思うんです。

NPOのように、既存の資本主義のメカニズムとは異なるアプローチで運営する方法もありますが、僕らは資本主義のルールにのっとってやっているし、その延長の中でよりよくしていく。

そうすると、大きくなるプロセスにこだわることが大事なのかなと。やっていることが良い悪いではなくて、やり方、そこをとにかく大きくなれば何でもいい、という話ではなくて、そこのプロセスも含めてしっかり取り組んでいる会社が良い会社の定義ではないか、という結論になったんです。

それが、全員で面白く働くという形です。全然面白くないと感じる社員で利益を上げてもしょうがないな、と。そういうことに対する取組みはしっかり伝えるという方向感に落ち着いたというか。だからやっていることは色々あるんです。

3.みんなが甲子園を目指すからゲームはおもしろい

ビジレザPRESS-面白法人カヤック柳澤大輔氏インタビュー

―カヤックさんの経営理念は「つくる人を増やす」ですが、何度か変わっているですよね。

変わってますね。今の経営理念が、4つ目か5つ目くらいです。会社が世の中に対して生み出せる価値というのは、起業してすぐの頃は、そこまでまだ言語として紡ぎ出せないんだと思います。だから、やりながらこうだ、となる。

言葉だから、どういう言葉が相手に伝わるか、響くかという技術も最初の段階ではなかなか身についていない。コピーライターに頼めば出てくるんでしょうが、選ぶ側のセンスもまだ無いから、なかなか言葉としての練度が足りないんです。

それから何度も見直すということが重要で、一度だけつくったから終わりという話ではなくて、何が大事だっけ、ということを繰り返し見るため、そこで変わっていかないといけない。

―ちなみに、どういうタイミングで見直しているんですか?

毎年見直していますね。変わる年もあれば、変わらない年もあります。そして、この言葉にそもそもどういう意図があったか、この言葉を意識して経営していたか、などを確認します。だから、経営理念について考えるということは、毎年やっていますね。今は行き着いた感じがあるので、5年くらいは変えていません。

変えるときは、自分が作った未来を自分が語る時に、もう一つしっくりいっていないことがあるときですね。

―現在の経営理念は、どのように考えられたのでしょうか?

何のためにその会社が生きているのか、という話で、人は何のために生きているのかというと、みんな「幸せになるため」というシンプルなことになります。世の中に貢献して、貢献の結果、自分が成長して世の中の役に立ったと感じると幸せになってくるんですよ。それと同様に、我々はこういう方法で社会の役に立って、意思をもって成長させていきますという、そういう経営理念を持たなきゃいけないと考えています。

「増やす」という言葉にしたのは、資本主義に対する強い意志というか、大きくしていくということから逃げないという意味で入れました。
普通の会社はもしかしたらそういう必要はないかもしれないですね。なぜなら売上利益をあげようということが暗黙知になっているからです。僕らはもともとのベースが、クリエーター出身だから、そもそも何で売上利益を上げないといけないんだ、ということに向き合う必要がある。

例えばスポーツをやっていて、なんで優勝しなきゃいけないんですか?みたいな、スポーツ楽しめばいいじゃないですか、みたいなことになってくると、いや違うでしょ、甲子園目指して優勝するためにやる、と。

たぶん優勝するためにやっているんじゃないんですよ。野球を通して自分を磨いたり、野球を通して世の中に感動を与え勇気付けたりということが大前提で、優勝する人ってそこまで持っていると思うんです。じゃないと力がのっかってこない。

だけど、それがあった時に優勝を目指さない方向に行っちゃうというか、最高に楽しいプレーをしてみんなを沸かせればいいんじゃないか、ということもできるわけです。でもそうするとちょっとゲームとして盛り上がらないというか。みんなが甲子園を目指しているからゲームとして面白くなる。

そこを忘れがちな性質の人と、忘れない人がいて。クリエーターに絞ると、忘れがちな性質が多くなってしまうんです。なので「増やす」という言葉をあえてつけています。そういう性質上の問題もあるというか。「つくる人をつくる」でもいいんだけど、「つくる人を増やす」と言っているのは職種が偏っているから、大きくするということを少し意識してもらいたいというか、そういうことで「増やす」が入っています。そういうちゃんとしたロジックがあってこの経営理念にしました。

4.社長の話は少なくて良い

ビジレザPRESS-面白法人カヤック柳澤大輔氏インタビュー

―柳澤さん自身が社員のみなさんに理念などを共有する機会はありますか?

実は、「ぜんいん社長合宿」以外では、特にありませんね。現場を取りまとめるのにこれだけは必要だと思っていることは、経営理念を見直すという作業から逃げないこと。それだけです。後は別に僕が話さなくても、現場にいっぱい感動する話とか転がりまくっているので。

人の気持ちを奮い立たせる話とか、そういうのは全く必要がない組織です。そっちをやるということもやろうと思えばできると思うのですが、あまり求められていないというか。すごいピンチの時とかは必要かもしれないですね。

ビジレザPRESS-面白法人カヤック柳澤大輔氏インタビュー
(「ぜんいん社長合宿」では忌憚ない意見が飛び交うブレストが行われている)

―どんどん人数が増えていらっしゃると思うのですが、これからも「ぜんいん社長合宿」をされていく予定なのですか?
 
もしかしたら全員で行く会場がもうないかもしれません。そしたらチームを2回に分けるとかいうことになるでしょうけど。これは噂なんですけど、Googleなんかは2,000人で山借り切ってやっているとか。だから、やれるところまでやろうとは思っています。僕が同じ話を2回すれば良いので、いくつかのチームに分けても社員の体感としては変わらないでしょうし。僕がみんなの前で話すというのは年に2回しかないですしね。

そこが結構面白いところで、経営理念を大切にしているということは、誰かが経営理念を伝えていくようなことが必然的に増えていくので、普通は社長の話が多い組織になるはずなんです。でも、そういうことはなくて、年に2回しかないという。そこでも冒頭に10分くらい話すだけで、あとはブレストやっているので、僕はほとんど話してないですよ。

ビジレザPRESS-面白法人カヤック柳澤大輔氏インタビュー
(「ぜんいん」社長合宿集合写真)

5.面白いのは「展開し、大きくすること」。

ビジレザPRESS-面白法人カヤック柳澤大輔氏インタビュー

―面白法人としてスタートして、今柳澤さんが経営者として一番面白いと思っている仕事は何ですか?

20年間ずっと変わらずに面白いと感じているのは、人に対することです。深めれば深めるほど深い気付きがあるので。毎年毎年発見があります。色々な人が入ってきて、一緒にやっている人の成長を見るとか、人に対することに興味があるというか、面白いなと思います。

前に比べて興味が出てきたという意味でいくと、会社も増えてきているから、経営者というものを突き詰めて、「経営」そのものが面白いですね。それを伝えていくとか、みんなをまとめていくとかも面白い。事業を展開し大きくすることがすごく面白い。まっすぐ取り組んで、大きくするところから逃げずにやるというか。あまりそれを面と向かって面白いという人はいないんですが、最高に面白いと思います。

あとは面白法人として、「地域資本主義」という新しい価値観を打ち出したので、それを時間をかけて取り組んでいきたいと思っています。GDPを国が定義しているひとつの豊かさだとしたら、違う形の豊かさの再定義をする、ということです。時間がかかると思いますけど、これはチャレンジですね。

―創業時よりも、「経営」がさらに面白いと感じるのはなぜでしょうか?
 
経営という職に対する理解が進んだということだと思います。その中でほとんどの失敗は自滅だと思うので、自分の実力に合った成長の仕方をして、色々な過程、トラブルがあって乗り越えていくということがないと成長していかないですよね。絶妙な感じだと思います。そこが難しいです。ただただ成長だけを重視すると失われていくものもあるから、プロセスを重視する。その中でどうするか。

これは、たぶんアートです。そういう感じがあるので、総合的な面で面白いな、と。

―柳澤さんにとって「働く」とは?

働くとは…。働いているという感覚もないかな。辛いことという労働感がないし。自分の使命、今回「地域資本主義」という形を打ち出しましたけど、それもこれから生涯をかけてやって取り組んでいくこと。「生きることそのもの」、そういうことですね。

一般の企業とは一線を画した奇抜な制度や行事。その裏には、考え抜かれた柳澤さんの経営哲学がありました。「会社を大きくする」こと以上に、社会全体のあり方の考え、その上に企業が成り立つという考え方に、資本主義に代わる新しい経済のあり方を感じるインタビューでした。今後のカヤックの事業展開と、「地域資本主義」が根付いた日本の未来が楽しみです。

ビジレザPRESS-面白法人カヤック柳澤大輔氏インタビュー

柳澤大輔(面白法人カヤック 代表取締役)

1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。1998年、学生時代の友人とともに面白法人カヤックを設立。「面白法人」という名のもと、新しい会社のスタイルに挑戦中。