「食農業界の常識を疑い、新しい経済を創造する」 アグリゲート 左今克憲氏インタビュー

「食料廃棄」、「自給率低下」、「耕作放棄地」、「後継者不足」…。今、多くの問題を抱える日本の食農業界において、従来の常識を覆すビジネスを展開している企業が株式会社アグリゲートです。

同社は『未来に「おいしい」をつなぐインフラの創造』をミッションに掲げ、2009年に創業。「旬八青果店」・「旬八キッチン」での製造・販売事業、地域産品のPRやコンサルティングを行う地域活性事業、「旬八大学」における食農業界のプロフェッショナルの育成事業など、さまざまな領域で事業を展開しています。

食農業界に革命を起こしてきた同社が、これから描く未来とは?株式会社アグリゲート代表取締役社長 左今克憲氏にインタビューを行いました。

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1.事業内容 “生産から販売までを一気通貫で担うビジネスモデル”

ビジレザPRESS-アグリゲート左今克憲氏インタビュー

―アグリゲートさんの事業について教えてください

大きく分けると「SPF」と言われる事業と、「プラットフォーム」型の事業があります。SPF(Speciality store retailer of Private label Food)というのは、食の業界で、生産から流通・販売(消費)までを一気通貫させたビジネスモデルです。SPFの中に「旬八青果店」と「旬八キッチン」があって、卸しも、その中の動きとして捉えています。

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ほかには、地域産品のPRやコンサルティングを行ったり、「旬八大学」という教育機関を作って、農業人材の育成を行ったりしています。

2.創業期のこと “バイトを掛け持ちしていた創業期”

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―そもそも、今の事業を始めるきっかけは何だったのでしょうか?

学生時代に日本全国を回る旅をした時に、地方が衰退していっている様子を見て危機感を感じたのがきっかけです。それで、「これを一生かけてやろう」と決めたんです。

僕の場合は、そもそも「生きる意味がない」というところから始まっていました。「生きることに意味って特にないな」って思ったときに、一生かけて何かを解決していけたらいいなと思ったんです。

―当時、農業のノウハウはお持ちだったのですか?

全くないです(笑)。美味しい食べ物が都市だと食べられなくて、田舎だと余っている。単純にものが流通されていないという事態を解決したいという思いだけがありました。

―当時、他にプレイヤーはいなかったのでしょうか?

いなかったと思います。いるにはいるんですが、ほとんどがコンサルタントみたいな感じですね。業界のことを俯瞰して、「こうすればいいじゃないですか」とアドバイスはするけど、自分はやらないという。

「自分は固定でお金が入ってきているから良い」という考えの方が多いな、という印象がありました。自分はそういう形ではやりたくないと思っていたので、プレイヤーになろうと思ったんです。

―2009年から事業を始められていますが、始めはどのような体制で事業を回していたのでしょうか?

旬八青果店は2013年10月開始で、それまでは全然違うモデルでやっていました。案件をもらってきて、それをできる人たちを集めてチームをつくる、というパターンが多かったです。僕一人プラス何人かで回していました。2012年まではほぼ一人だったんですよ。フリーの人たちがやっているのと同じやり方です。

でも、やりたくてやっていたので、辞めたいと思ったことは全くないです。確かに体力的にも大変ですし、バイトもやっていたので「何やってるんだろう」って考えることもありましたけど。でも、「もう辛くて辞めたい」と思うことはなかったですね。

―体制をシフトチェンジしようと思ったきっかけはありますか?

実は、事業開始当初から今やっていることをやろうとはしていました。でも、あまりに業界のことを知らなさ過ぎるというのがあって。それについて、農業大学校の人が読む教科書に載っているかというと載っていなくて。プロフェッショナルな人に聞いても、それぞれの領域には詳しいけど、自分と違う分野は全然わからない、という状態でした。それで、情報をつなぎ合わせるまでにだいぶ時間がかかりました。当初は3年くらいかな、と思っていたんですが、4年かかりましたね。

3.ユニークネス1 “高収益を実現する八百屋の秘訣”

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―普通の小売とかだと粗利が低くなってしまうと思うんですが、「旬八青果店」さんでは50%というお話を伺いました。その要因はどこにあるのでしょうか?
 
「業界の常識」を疑うことです。僕たちは、「食農業界の常識を疑い、新しい経済を創造する」と言っています。たとえば「農家さんが捨てています」と言っているものでも、僕たちからすると価値がある。それを流通させれば、高くて買えない、と言っていた人がちょっと安く買うことができて、農家さんも収入がゼロだったのがプラスになる。そういったことをどうやればいいんだろう?というのが原点であり、今もずっと模索しているところです。

―なるほど。常識を覆すことがビジネスになっているんですね。現在、契約されている農家さんはどのくらいの数なのでしょうか?

現時点では約40地域にいらっしゃいます。実は、2013年〜2014年は100地域ありました。減らしていった理由は、僕たちが学んでいったからです。物流面で逆にメリットがなくなるとか、地域を増やしていく過程でオペレーションが追いつかなくなるということがあってたので、今は40くらいに抑えて、これからまた増やしていこうと思っています。

―経験から学んで、力をつけて、また増やしていく、と。

そんな感じです。なので、今は選定を相当厳しくやっています。選定基準として重要なのはすごく当たり前のことなんですが、「コミュニケーションをちゃんと取れるか」ですね。

絶対に問題は起こるんです。そのときに、ちゃんとお互いがごまかさずに話せるか、ということが大事で。実は、なかなかそれをやれる人が少ないんです。はじめは「農家さんが困っているから助けないと」というところから始まったんですが、全員が良い人というわけじゃないんです、当たり前ですけど。
良い人とだけ付き合えるわけじゃないので、お互い本音で話せるかということはすごく大事です。

―最後はやっぱり人柄が重要ということですね。

一応、僕らがいないと死ぬ、というような人たちとは今のところやっていなくて。たとえお互いにメリットがあったとしても、コミュニケーションができないと判断したら、僕らはほかにも買う所があるのでそうさせてもらいます、ということはあらかじめ話しておいて。あくまでも中立というか、冷静にビジネスとしてやっています。

―自社農園も運営されていますが、その意図はどういったところにあるのでしょうか?

2つ理由があります。ひとつは価格のボラティリティが高い商品を生産すること。ある時期にずっと高止まりするような商品を農場でつくることですね。もう一つは、自分たちがオペレーションを学ぶこと。農家さんと価格交渉をするときなど、かなり役に立っています。「ここを改善したらこの金額で出せますよね」とオペレーションまで踏み込んだ価格交渉ができるようになりました。

SPFのモデルをやっていないと、安く買った方が良いじゃんってなるんですが、生産までやると、そこまでいくとできないでしょっていうのが僕らは一発で分かるんです。そしたらここまでは今耐えられるとか、そういう感覚がつかめます。

4.ユニークネス2 “産業全体の育成を視野にいれた事業展開”

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―最初のころは知識やノウハウを集めていくことに苦労されたということでしたが、現在は旬八大学(https://www.shunpachi-univ.com/)を運営されていますよね。こちらはどのような意図で運営されているのでしょうか?

僕が起業しようと思ったのが2005年頃。当時は第一次起業ブームで、ホリエモンが筆頭だったと思うんですが、僕もビジネスコンテストに結構出ていたんです。出場したのはほとんどIT系でした。一方で、僕の興味領域は「農業と食」だったので、その分野で同じようなコンテストをやりたいと思って自分で主催してみたら、集まった人材の多くが癒し系だったんですね(笑)

つまり、ビジネス力があまりなかったんです。それで、良い人材をどうにか集めたいというのと、良い人材になるであろう素質を持った人たちを育成しないといけない、と思ったんです。

―なるほど。ご自身の経験がきっかけなのですね。現在受講されている方々はどういった方々ですか?

30%は起業を志している個人の人。ほか30%は企業の方で、農業系の部門を立ち上げていて勉強に来られる人。残りの40%くらいは農家さんや地方で直売所をされているような、現役で農業をされていてさらに勉強したいという人です。

―ノウハウを外部にも共有してしまうと、競合も増えていくということも考えられますが、それに対してはどうお考えですか?

それは今は全く気にしていなくて。いま、食農領域のマーケットは100兆円弱あります。例えば上場されているオイシックスさんで約300〜400億円、農業総合研究所さんが約11億円。それでもマーケットには残り80兆円あります。つまり、ひとつの事業だけで牛耳るのは絶対無理だと思うんです。

僕らはこのノウハウでずっとそれを守り続けていく、というよりは、どんどん新しいものを入れて進化していくつもりでいます。だから、旬八大学の講座でも、その瞬間の最新のノウハウを提供して、毎回講座を受けてもらっても文句言われないくらいに、どんどんアップデートしていこうという気概でやっていますね。

5.今後のビジョン “プラットフォーム型企業で社会問題解決”

ビジレザPRESS-アグリゲート左今克憲氏インタビュー

―今後の展望を教えてください

ゆくゆくは社内起業のようなプラットフォーム型のスタイルにしていきたいですね。うちの会社を使って起業していく、という状況が経営スタイルとしてもいいんじゃないかと思っていて。小さな群をたくさんつくって、色々な案や解決策を持ったメンバーが事業をやっていく、という状態が良いなと思っています。

―5年後や10年後の直近の未来の展望はありますか?

5年後は通過点として株式上場したいと思っています。それは、この業界で圧倒的に高収益だということを示して、さらにそれで興味を持って、入りたい、働きたいという人を増やしたいというところが大きいですね。現時点では上場目標時期を2021年4月期としています。

10年後には「食農領域は儲からない」というイメージを変えていたいなと思います。食農領域もしっかり稼げて、どんどん新規で人が入ってくると良いと思いますね。

一番大事な仕事なはずなのにみんな給料が低い、という状態を変えるためには、まずは経営だと思うんです。働く人たちが高収益になるようなサービスを僕らがたくさん提供しているような状態になっていたいですね。

―若い人たちは、「食農では稼げない」というイメージを持った人が多いと思います。それが一因となって後継者がいないという問題も起きていると思いますが、そこに対してのアプローチは考えていらっしゃいますでしょうか?

それが旬八大学になってくると思っています。今でも、大学生の受講生もいて。そういう若い世代の人が参入してくると、この業界は盛り上がると思います。ここ数年、明らかに食農業界を目指す人たちのレベルが上がったと感じています。

―ちなみに10年後の目標を達成したとしたら、また何か新しいことにチャレンジされるのですか?

そうですね。これは個人的なことになりますが、僕は小説家になりたいと思っています。それは、自分が本や漫画から良い影響を受けてきたので、自分もそれを人にできたらと。
今、自分はものすごく良い経験をさせてもらっているので、それをできる限り還元したいと思っています。

今後、日本には起業家が増えないといけないと考えています。未来の起業家が道に迷ったときに、自分の経験が活かせればと考えています。今僕の周りには経験豊富な方がたくさんいるので、話を聞いて疑似体験することができます。でも、その人たちに出会わなければ、僕も誰に聞けば良いかすら分からなかったと思います。

6.働く哲学

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―左今さんにとっての「働く」とは?
 
僕にとっては生きることと同じです。

生活と仕事が分離していないんです。テレビとかでしか見たことないですが、「生活のために我慢して働いてあげているんだぞ」というような人はいるじゃないですか。

そうじゃなくて、僕は「どう生きたいか」が「どう働くか」だと思うんです。なので、「どう生きたいか」を突き詰めた人は「どう働くか」という答えが必然的に出てくるというか。

その答えは人によってさまざまなので、それは自分で悩んで乗り越えないといけませんが、その理想の生き方、理想の働き方ができるかは、努力次第だと思っています。

―左今さんは、「どう生きたい」とお考えですか?

人に良い影響を与え続けたいですね。

ただ、それは「僕がいないと生きられない」ということではなくて。何か頑張るきっかけを与えるであるとか。自分が生み出す商品やサービスが、そういうきっかけを提供できるものであると良いな、と思っています。

ノウハウがゼロだったことすらも強みに変え、業界を変革してきた左今さん。目先の利益ではなく、業界全体、ひいては日本の未来を見据えた経営方針には、人に、直面する問題に「向き合うこと」を大切にしてきた左今さんの生き方があらわれていると感じると同時に、未来のアグリゲートへの期待が一段と高まりました。

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左今 克憲(株式会社アグリゲート 代表取締役社長)
東京農工大学農学部卒業後、株式会社インテリジェンス新卒入社。2年後の2009年に退職し、同年、株式会社アグリゲート創業。 現在、「地方と都市が健全な経済と豊かな食生活を持続していけるようなサービスを創出していく」ため、旬八農場、旬八青果店、旬八大学など食の生産流通小売業(SPF)を展開している。

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